新たなる聖地、神居古潭
カムイコタンは昔からアイヌの人々には聖なる場所とされてきました。
観光地として有名ですが、冬季に訪れる人はそれほど多くありません。ところが今年は何やら様子が異なります。多くの人がこの時期に訪れているのです。
「聖地巡礼」がその理由でした。カムイコタンは人気アニメ「ゴールデンカムイ」の舞台の一つなのです。明治の昔、アイヌ民族の少女と日露戦争の生き残り兵が、網走監獄の死刑囚が隠した金塊を探す北海道を舞台とする冒険物語です。
神居古潭の由来は、アイヌ語でカムイとは「神」、コタンは「居所」。日本遺産では「神の里」と表現されています。
神の里「カムイコタン」は石狩川中流域にあり、両岸に奇岩の大岩塊が屹立し、累々と横たわる巨岩の間を大滝のように激流が迸り、いかにも人智の及ばぬものが棲みついているかのような情景を見ること ができます。
舟が重要な交通手段だった頃、カムイコタンの 巨岩と激流は石狩川で一番の難所でした。カムイコタンの激流はいくつもの渦をまき、時には舟を難破させ人々を飲み込みました。この地のアイヌの人々は、この厳しい自然やその痕跡をカムイの仕業と考え、この地に魔神を見出しました。
次のような岩の名前に、魔神と英雄神による戦いが繰り広げられたというアイヌの思想が壮大なストーリーとして表れています。
激しい渦流によりできた何人も人が入れる大きな穴は「ニッネカムイ・オ・ラオシマ・イ(魔神が残した足跡)」。
大口をあけて断末魔の叫びをあげているような形の奇岩は「ニッネカムイ・サパ(魔神の切り落とされた頭)」。
首を切り落とされたような崖の上の巨岩は「ニッネカムイ・ネトパ・ケ(魔神の胴体の部分)」。
「北海道」の名付け親、松浦武四郎(1818-88)が詳細な記録を残しています。
「カムイコタンは急流により形作られた」。さらに「山々は険しく古木はたくましく立ち、岩は神秘の形をなし、荒れ狂う流れが谷にとどろき、竜や蛇が潜んでいるかのようである。」と書き記しています。
ゴールデンカムイの物語を思い出しつつ、谷にかかる吊り橋「神居大橋」を渡って行くと、明治の北海道の探検気分が味わえるかもしれません。